「冬になると風邪をひきやすい」
「インフルエンザが流行るのは、免疫力が落ちるから」
こんな言葉を、私たちは毎年のように耳にします。でも、ここでふと疑問が浮かびませんか?
そもそも冬になると下がると言われている免疫力って、何なのでしょうか?
気合いや体力の話?
それとも、体質の問題?
実はこの「免疫力」という言葉、日常ではとても便利に使われていますが、医学的にはかなり幅の広い概念です。
免疫力とは「一つの力」ではない
免疫力とは、ざっくり言えば
体に侵入してきたウイルスや細菌から、自分を守る仕組みの総称です。
この仕組みは、大きく分けて二段構えになっています。
① 最前線の防御:自然免疫
まず最初に働くのが、自然免疫です。
鼻や喉、気道の粘膜、そして線毛(せんもう)と呼ばれる小さな毛の動きによって、
ウイルスを体の外へ押し流そうとします。
これを粘液線毛クリアランスと呼びます。
② 司令塔として働く「インターフェロン」
もしウイルスがこのバリアをすり抜けた場合、
体はすぐに「インターフェロン(INF)」という物質を分泌します。
インターフェロンは、いわば――「ウイルスが来た!」と全身に警報を出す司令塔。
特にINF-αとINF-βがインターフェロンとして有名です。
このインターフェロンの合図によって、細胞の中では
ウイルスの増殖を抑えるための数百種類にも上る防御遺伝子のスイッチが入ります。
これらの防御遺伝子はインターフェロン刺激遺伝子(ISGs)と呼ばれています。
冬の「乾燥」が、免疫を静かに弱らせる
ここで重要なのが、「冬」という季節の特徴です。
近年の研究から、低温そのものよりも「乾燥」が免疫に大きく影響することがわかってきました。
こちらのコラムでも書きましたが、肌のバリア機能にも影響する乾燥が大きく影響しているということですね。
イェール大学の研究チームが行った、マウスを用いた研究では、
- 湿度が低い環境
- 乾燥した空気を吸い続ける状態
この条件下では、
- 粘液線毛クリアランスが低下
- インターフェロンが十分に働かない
- 抗ウイルス遺伝子がうまく発現しない
という現象が確認されています。
つまり――乾燥によりウイルスと戦う初動のスイッチが入りにくくなるのです。
最新技術である一つ一つの細胞の遺伝子を調べることのできる技術を用いたデータでは、
乾燥状態で抗ウイルス作用を示す遺伝子、MX1が大幅に低下することが示されていました。

ここから、インフルエンザにかかる前から乾燥によりMX1を持つ細胞が少なくなってしまっていることがわかります。
「免疫力が下がる」の正体は、反応の鈍さ
興味深いことに、低湿度環境では、ウイルスの量そのものが極端に増える前から、症状が重くなることが示されています。
これは、「ウイルスが強い」のではなく、
体の反応が遅れてしまうことが原因と考えられています。
特に重要なのが、
- インターフェロンが十分に出ない
- Mx1などの抗ウイルス遺伝子が働かない
という点です。
これは上のグラフでとてもよく理解できますね。
実際、適切な湿度環境では、
ウイルスに感染していない周囲の細胞までが
あらかじめインターフェロンの影響を受け、防御態勢に入っていることが確認されています。
これこそが、
このコラムでお話ししたかった「免疫力が高い状態」の一つの姿なのです。
免疫力は「鍛える」ものではなく「整える」もの
ここまで読むと、免疫力とは
「根性」や「体力勝負」ではないことがわかります。
むしろ大切なのは、
- 乾燥させすぎない環境
- 粘膜がきちんと働ける状態
- インターフェロンが自然に出やすい体内環境
こうした日常のコンディションです。
冬に体調を崩しやすいのは、
年齢のせいでも、気合不足でもありません。
体が本来持っている免疫力が、乾燥によって働きにくくなっている
――それが、今わかってきた科学的な答えです。
まとめ
「免疫力」とは、静かに働くチームプレー
- 免疫力とは、一つの力ではない
- 冬の乾燥は、インターフェロンの働きを弱める
- インターフェロンは、免疫の司令塔
- 湿度と環境は、免疫の土台を支えている
「冬は免疫力が落ちる」と言われる背景には、
インターフェロンという、目に見えない防御ネットワークの存在があります。
冬に落ちる免疫力を整えるためには、乾燥を避け、目に見えない防御ネットワークの力を落とさないことが必要なのかもしれません。
夏の免疫に関する記事はこちらです。
引用文献
※ 注意
本記事はあくまで情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスではありません。
健康上の問題のある方は、必ず医療専門家にご相談ください。

