「最近、髪のボリュームがなくなってきた気がする…」
「トップがぺたんとしやすい」
30〜50代の女性の間で、そんなお悩みを耳にすることが増えています。年齢とともに変化する髪の質感。その背景には、毛根の奥で“髪を育てる司令塔”と呼ばれる毛乳頭細胞(Human hair follicle dermal papilla Cells、HFDP細胞)の働きが深く関わっています。
ヒシ果実と発酵のチカラ
今回ご紹介するのは、アジアで古くから食用や滋養強壮に用いられてきたヒシ(Trapa japonica)。この果実を発酵させたエキス(TJFs)が、髪の土台細胞にどのような変化をもたらすかを調べた研究が報告されています。
研究チームは、ヒシ果実をバチルス属の乳酸菌で発酵し、得られたエキスを試験管内で毛乳頭細胞に添加。その結果、以下の効果が確認されました。

- 細胞の増殖と移動を促進:髪をつくる細胞の働きが活発に。
- 細胞周期を進める:髪の成長期を維持しやすく。
- 5α-リダクターゼⅠ型を抑制:男性ホルモン由来の薄毛要因にアプローチ。
- アポトーシス(細胞死)の抑制:毛乳頭細胞を守る。
- 血管新生の促進(VEGF発現増加):毛根への栄養供給をサポート。
これらの作用は、Akt/ERK/GSK-3βシグナル伝達経路(細胞の生存・増殖・分化などを制御する主要な経路のことです。)という細胞内ネットワークの活性化を通じて起こることも明らかになっています。
さらに、毛髪の成長に不可欠なケラチノサイト増殖因子(KGF)の産生も確認されました。
髪の「ハリ・コシ」との関係
HDP細胞は、髪の太さ・強さを決める鍵。そこにヒシ発酵エキスが働きかけることで、髪の土台環境が整い、ボリューム感やハリのある髪質を保つサポートになる可能性が示されています。
もちろん、これは細胞モデルでの基礎研究段階ですが、日本人に馴染みのあるヒシが髪の健康維持に役立つかもしれないという点は未来を感じさせてくれます。

女性のライフステージと髪の変化
30代後半から50代は、ホルモンの変化やストレスの影響で、髪が細くなったり抜けやすくなったりする時期。さらに「糖化」や「酸化」といった体の内側の変化も、髪のツヤやコシに影響を与えます。今回の研究で示されたヒシエキスの作用は、こうしたライフステージ特有の変化に寄り添う可能性を秘めています。
️ 引用文献
Nam, Gun-He et al. “Bacillus/Trapa japonica Fruit Extract Ferment Filtrate enhances human hair follicle dermal papilla cell proliferation via the Akt/ERK/GSK-3β signaling pathway.” BMC complementary and alternative medicine vol. 19,1 104. 14 May. 2019, doi:10.1186/s12906-019-2514-8
