年齢を重ねると、「最近、なんとなく目がかすむ」「まぶしさを感じやすくなった」という声をよく耳にします。
その原因のひとつが「白内障(はくないしょう)」です。白内障は、目の中でレンズの役割をしている水晶体が濁ってしまう病気で、加齢とともに多くの人に起こります。80歳までに、アメリカ人の半数以上が白内障になるとも言われています。
でもこの白内障、実はただの「老化」ではなく、「私たちの体の中で静かに進行している化学反応」が深く関わっていることをご存じでしょうか?
そのカギのひとつが、「糖化(とうか)」と呼ばれる現象です。
糖化ってなに?
糖化とは、食べ物などから摂った糖が体内のタンパク質と結びついてしまう反応のこと。調理のときに肉やパンがこんがり茶色になる「メイラード反応」と同じで、体の中でもゆっくりと進みます。ただし、メイラード反応と体内で起こる糖化は明確に区別され、研究の世界では糖化=Glycationという言葉が使われています。
この反応が長年続くと、AGEs(終末糖化産物)という物質が作られ、体の中にたまっていきます。AGEsは一度できると分解されにくく、コラーゲンが多い皮膚や血管、目の水晶体など、長持ちするタンパク質のある場所にどんどん蓄積します。
肌の黄ぐすみやシワ、血管の老化、生活習慣病などとも深く関係しているといわれています。
糖化についての情報は、下記のフラコ記事でも紹介しております。
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眼の水晶体は「時間を刻むタンパク質」
眼の水晶体の中には「クリスタリン」というタンパク質がぎっしり詰まっています。
実はこのクリスタリン、生まれてから一生入れ替わらないという特別なタンパク質です。つまり、水晶体はまるで「時間のカプセル」のような存在。年齢とともに、酸化や糖化などの影響がそのまま蓄積していきます。

牛の水晶体を糖と一緒に長時間おくと、年をとった人の水晶体と同じような黄ばみや蛍光物質が出ることが確認されている研究もあります。つまり、水晶体の中でも糖化反応がじわじわと進行しているのです。
糖化の眼への影響
水晶体にAGEsがたまると、いくつかの変化が起こります。
- タンパク質がくっついて濁る
糖と反応したクリスタリンは、互いに結びついて固まり、水晶体が濁っていきます。 - 膜のタンパク質とも“くっつく”
水晶体の膜と内部のタンパク質が架橋し、透明性がさらに失われます。 - もともと透明だったものが不溶性に
AGEsが増えると、もともと水に溶けていたタンパク質が固まり、核の部分が黄色く濁っていきます。これが「核白内障」と呼ばれるタイプの白内障です。 - タンパク質の性質そのものも変わる
糖化されると、タンパク質が変形し、熱や酸化に弱くなります。目を守る酵素(カタラーゼなど)まで糖化で働きが鈍くなることも分かっています。
目では特に、N-カルボキシメチルリシンやメチルグリオキサール・ヒドロイミダゾロンと呼ばれるAGEsが多いことが知られています。
また、水晶体の「α(アルファ)クリスタリン」というタンパク質には、他のタンパク質を守るシャペロンという働きがありますが、これも糖化によって弱くなってしまいます。
結果、タンパク質のまとまりが崩れ、透明だったレンズが少しずつ曇っていくのです。
眼の老化は「静かな化学反応」の積み重ね
白内障は、「年をとったら仕方ない病気」ではありません。
長年かけて進む糖化という化学反応の積み重ねなどが、水晶体の透明性をじわじわと奪っていくのです。
老化の進行を完全に止めることは難しいですが、進行をゆるやかにすることは可能です。
たとえば、血糖値を急に上げない食事を心がける、抗酸化・抗糖化成分をとる、紫外線対策をするなど、日常の小さな習慣が、目の健康と「透明感」を長く保つことにつながります。
※ 注意
本記事はあくまで情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスではありません。
健康上の問題のある方は、必ず医療専門家にご相談ください。
引用文献
- Fan, Xingjun, and Vincent M Monnier. “Protein posttranslational modification (PTM) by glycation: Role in lens aging and age-related cataractogenesis.” Exp Eye Res. 2021;210:108705. doi:10.1016/j.exer.2021.108705
- 久保江理. “抗糖化、抗酸化からみた水晶体の老化”. Glycative Stress Research 2020; 7 (4): 283-286. doi:10.24659/gsr.7.4_283
